伊澤の牧場〜アンチフォーム交友録〜

行き場のない言葉達を放牧しています。勝手に書く。

6/20日配信平沢進+会人(EJIN) <Streaming>『会然TREK 2K20▼04 GHOST VENUE』

一つ断っておくが、私は平沢進をほとんど知らない。また、音楽の専門家でもない。しかし、ほとんど知らないだけに新鮮な驚きを持って感動することができた。その上で書こうと思う。

 

 暗闇の中からテスラコイル(高電圧発生モジュール)が現れて明滅する。ここからもう分からない。分からないが何かが起こりそうな気配が空間に充満してくる。その空間に、セグウェイに乗った会人と平沢進師匠(以下師匠)が現れる。謎が謎を呼ぶ登場シーンから師匠のライブは始まった。

 まず、『世界タービン』のギターソロが超絶カッコ良い。ステージに飛び降りてネックを持ち上げながらソロを弾いて颯爽とステージに戻る立ち姿は66歳とは思えない身のこなしだった。『caravan』で機材を載せた台を皆で引きながらゆっくりと進んで行く様子がかなり儀式的で、「ああ、これがcaravanの道程か...」などと謎の感慨に耽ることができた。

 その後、セグウェイに載りながらギター演奏をするなど、更に訳がわからない演出に初見の鑑賞者を巻き込んでいく師匠。素晴らしい。

 演出とは別に、楽曲として良かったのは間違いなく『SWITCHED ON-LOTUS』だろう。エレキからエレアコに持ち替えた師匠がクラシックギター調の旋律を奏で、1人で朗々と歌い出す。声量も素晴らしく、仰々しい装置はなにもなかったが、ただひたすら朗々と異国情緒溢れる音楽の素晴らしさに酔いしれることができた。『パレード』は、上下にブレる極太のレーザーハープを手前の会人達が操作をし、師匠が緑色に光る卓上のレーザーハープを操作するというレーザーハープオンリーの演奏形態だった。この楽曲は今敏のアニメ映画『パプリカ』の楽曲として著名なものであるが、恐怖のパレードという歌詞に見合ったような狂った旋律とレーザーハープを手で遮断する際の腕の動きが宗教儀式として完成度が高く、パフォーマンスと楽曲の狂気が合わさって、平沢教と呼ぶにふさわしい一曲となっていたと思う。その後、救済の技法の最後の決めポーズでは両手を掲げた師匠が照らされながら闇の中に吸い込まれるという、更に宗教感マックスの演出がなされ、「これが平沢進のライブか...」などと更に感慨を覚えた。

 しかし、そうした宗教的な儀礼性を帯びた私の平沢進観は最後の『現象の花の秘密』で脆くも崩れ去る。『QUIT』で暗転したステージに無気味なエンジン音が響き渡り、チェーンソーを持った平沢進と会人がステージ上に現れたのだ。あまりにもチェーンソーが唐突すぎて呆気に取らている間に、高らかにチェーンソーの稼働音を響かせながら行進する師匠と会人達。ステージ上に設置された巨大テント(のようなもの)の前に行き、真っ向からチェーンソーを振り下ろす師匠。引き裂かれる巨大テント(のようなもの)。それに倣ってチェーンソーを振り下ろす会人達。チェーンソーを持ちながら『現象の花の秘密』を歌い上げる師匠は顔色一つ変えておらず、それが逆にナンセンスかつ崇高性を帯びていてとても良かった。笑いと崇高性は紙一重で、そのどちらに転ぶかは見せ方次第なのだなと強く思いながら視聴した時間だった。

 最後にステージを去る師匠と会人達はホログラム合成された観客にハイタッチをしながら去っていく。演奏中に時折挟み込まれた師匠と会人が観客席で談笑するカットは何だったのだろうか。ホログラム合成された自分たちとハイタッチしたら、それはそれで面白かったかもしれない。7月中に360度視点の映像も公開されるようだ。師匠のライブをまだ見ぬ諸氏はぜひそれを見てみてほしい。