伊澤の牧場〜アンチフォーム交友録〜

行き場のない言葉達を放牧しています。勝手に書く。

牧場エッセイ-人生はいつだってボディブロー。あなた、今日の夕飯はシューカツよ(四国篇)。

 四国行きは就活のために唐突に決定した。ああ、面倒だ。ため息がマスクの繊維を僅かに振るわせる。どーしてわざわざ四国くんだりに今の時期に行かねばならないのか。某県や某市の試験は都内でもやってくれたんだけどなあ、などと小声でぶつくさ呪詛を唱えてみる。まあでも仕方ない。もはやこれは悲しい性によって決定づけられた運命というほかないのだ。心静かに受け入れよう。南無三。

 前置きとして述べておくが、とにかく美術館学芸員や研究員などと呼ばれる仕事(あるいは劇場、ホール職員など文化施設職員全般)は募集が少ない。自らの専門と合致する募集が出れば場所の遠近など問わず、山だろうが島だろうが海の向こうだろうが、どこへでも受験に駆けつけるというのが、そうした職業につこうという人間の悲しい性。否、必然である。戦後美術研究などを不真面目ながらいそいそとやっていた僕なんぞも御多分に洩れず、自分の専門と比較的近い分野の募集が出たので、餌につられてのこのこやってきたわけである。僕は今、四国のとある県にいるが、関東甲信越以外の場所に自分がいるってのも珍しい。このご時世では特に珍しいかもしれない。四国にいくなら、いつか自分の好きな城めぐりで、と思っていたけれど、最初の出会いが就活とはこれいかに。まあこれも何かの縁だし、ひとつ楽しんでやろうじゃないかと思った次第。

 まあ、兎にも角にも就活だ。就活って響きは嫌なので、カタカナにしてみる。シューカツ。シュークリームのクリームの代わりにカツが入っているようなイメージになった。こうしてやるとシューカツもなかなかいけるかもしれない。何より美味しそうだ。もとよりシューカツが主目的の旅にはなるが、そこは令和のサブカル男。節操もなく美術、演劇、音楽の3軸をどうにかこうにか研究に織り交ぜている僕である。四国で、いやもう言っちゃおう!愛媛で展示もしくは公演を鑑賞しない手はない。なにせ、東京で週末に行われる多くの展示と公演を見逃さざるを得ないことに悔し涙を流してはまた流し、行きの電車をびっしゃびっしゃに濡らしてきたのだから、せめて面白いものでも見れなきゃやってらんないという気分にもなるのである。幸いにも2日にわたる試験が終わった後に空き時間があるので、その時間を使って観光なぞをしてみようと思っている。愛媛県美術館はまあ当然行くとして、アートスペースも色々見て回ろう。愛媛に旅をしたことのある友人から愛媛でレジデンススペースをやっているアーティストを紹介してもらって様々に情報を得られたので、とりあえず現代アート関係は大丈夫そうだ。次に演劇だが、愛媛の劇場でやっている演目を調べたら、ななななんと「燐光群」の劇作家、坂手洋二さんが講演会形式のドラマ・リーディングをやるというではないか!うはうは。https://blog.goo.ne.jp/sakate2008/e/0bd42ae0abef38f6067bb98fe1723e10

「シアターねこ」というところでやるらしく、猫好きの僕としては好印象。早速予約をしておいた。愛媛といえば半農半芸生活をしている劇作家、鈴江俊郎さんも暮らしているらしい。大竹伸朗さんも宇和島に住んでいるし、瀬戸内国際芸術祭も含めて、なんだか芸術活動が更に盛り上がって行きそうな予感がする。

 松山市は僕の住んでいる横浜市と雰囲気が似ていて、観光地らしい煌びやかさを放ちながらも伝統を守り受け継いでいこうという気概を感じる。そして意外と皆標準語を話す。地方の県庁所在地ってわりとそういうものなのかもしれない。

 ベルトを家に置き忘れてしまったので、今からドンキに買いにいく。繁華街の近くのホテルで良かった。少し明日の筆記試験の準備をして寝よう。