下関で仕事をはじめてから長らくブログをサボってしまっていた。元来の不出不精ならぬ筆不精が祟ったからであり、言葉の放牧を怠っていたこと、ご容赦願いたい。これからは少しずつ更新していきたい所存だ。
何せ、見たものと書いたものの数が偏りがちになるのは、文章書きとして大変良くないことであろうと思うし、自分も修論やエッセイを書いていた時よりも腕が鈍った感じがしているので、書きつつ読み返しつつ考えていけたらと思っている。
さて、本題に入ろう。北九州市若松区には、若戸大橋と呼ばれる真っ赤な橋がある。この橋、北九州の戸畑区と若松区を繋ぐ交通の要所として機能しているのだが、どうやら重要文化財に指定されているようで、若戸大橋を宣伝する幟がある場所も多かった。
若松区の高塔山には「ベラミ山荘」と呼ばれる山荘があり、そこには「ベラミ山荘 若戸大橋祭り」なる展覧会が行われていた。
汗だくになりながら山荘周辺にたどり着いたは良いものの、ほとんど山登りの様相を呈してきていた。いやはや、こんなところに人が住む場所があるのかと半信半疑になりかけていた矢先、涼しげな音楽が木陰の隙間から聞こえてくる。音につられて細い小径を歩いていくと、丁寧に刈り込まれた芝生が広がる中庭に人が点々と散らばって椅子に腰掛け、音楽に耳を傾けているのが見えた。
ライブを行っていた末森樹(Gt.)さん×山福朱実(Vo.)さんのデュオによる軽快なスペイン音楽は、風に乗って草木を揺らしながら僕の耳に届いた。
木陰で涼みながら音の流れに耳を澄ませる度、少し重力から解放されたような気がした。山荘は普段はシェアハウスとして使われているようだが、今回は展覧会ということで部屋ごとに会場構成がなされていた。
作品数がそこそこあったので、今回は気になった作品をひとつだけ上げたいと思う。
僕が関心を惹かれたのは、ほしそらフィルム 映像作品『赤い橋と赤い女』という作品だ。この作品は良い意味で素人っぽさがあり、それがまた良い味を出している。
映像自体は、刑事ドラマ仕立てで、死体の検分に訪れた2人の刑事が赤い橋(若戸大橋)の写真を大量に発見するところから始まる。橋の爆破予告が警察に届き、爆破予告をしたのは、橋の写真を大量に所持していた死体の男なのでは?と後輩刑事が推理をするのだが、先輩刑事は写真に映る赤い服の女に目を止める。刑事は、橋=女に魅了され、橋を見つめながら、「良い女だなぁ」と呟くシーンで映像が音楽とともにフェードアウトしていく。
赤い服を着た女が若戸大橋の前でカメラを構える男を翻弄する様子は見事で、幻想的な雰囲気で劇中劇の要素も多分にあり、楽しむことができた。胡蝶の夢のような話でもあり、現実なのか夢なのかわからなくなってくるような不思議な雰囲気を纏った映像作品であった。
ベラミ山荘という場所自体も、外界から隔絶された秘境的ユートピアだったので、そうした環境とも相まって作品の魅力が引き出された良い鑑賞体験ができたと思う。
ベラミ山荘に行くためなら、また汗だくになっても良いかな、と思える体験であった。