伊澤の牧場〜アンチフォーム交友録〜

行き場のない言葉達を放牧しています。勝手に書く。

velvetsun village《田上碧 guest 岡千穂》ライブ配信感想

 先日、2人のライブを配信で見た。田上さんとオカチホさんのライブは個別でみたことがあったが、2人でのライブは初めて見たかもしれない。田上さんのパフォーマンスは、「弾き語り」だった。弾きながら語り、語りつつ歌う。米澤一平さんとのセッションを見に行った時も感じたが、田上さんは情景描写を作品によく載せる人だと思う。情景の客観的な描写と個人の主観的な描写を織り交ぜてイメージを立ち上げるのがとても上手だと感じている。カマキリの卵を子供達が潰す光景と、いくらが潰れる時の感覚を重ね合わせ、その音を想起させる語りも良い。歌詞の「息が白くなるように 」という箇所ではハアッと息を吐き出す。カエルが登場した際には鳴き声を挿入したり、語りからいきなり駆け上がるように音程をつけることで、客観的語りが歌に変換され、急に主体性を持つ言葉として聴こえることもあった。主体と客体の「揺らぎ」を他方向から想起させ、観客とイメージを共有するのが上手い。というか、そもそもめちゃ歌が上手い。上手いというのは音程が取れているということ以上に息の使い方、言葉の支え方に強度があるということで、単調に進むのではなく、豊かな空間の収縮を感じさせるような歌声だった。

 オカチホさんは本人がTwitterで「事故み」があると発言していたが、曲終わりのディレイやピッチベンドによって起こされる音の「揺らぎ」はとてもイけていた。オカチホさんがシンセで生み出す一種機械的な音の揺れは、田上さんが作り出す声の抑揚や音高の乗降とは別のベクトルにありながらも、お互いが作り出す音程やスピード感と重なりあいながら展開していた。オカチホさんの演奏は、田上さんの歌の伴奏として装飾的に聴こえる部分も、独立したノイズミュージックとして聴こえる部分もあり、双方が音楽を紡ぐ中で自らの音の揺らぎが立ち消えないような絶妙な領域を行き来しているように見えた。その危うさが僕にはむしろ心地よく感じられた。一歩道を誤れば車体が大破するようなモトクロス。オカチホさんが道を曲げたり伸ばしたりしながら壊れそうで壊れない箇所を繊細に行き来しているように感じられた。

 最終的にはオカチホさんと田上さんのコラボレーションは自分にとっては心地良いグルーヴになって聴こえてきていた。田上さんの歌・声は音の可能性に開かれていて、これからも様々な音を取り込みながら新しい空間を立ち上げていくのだと思う。今回のライブアーカイブは終了してしまったが、機会があればまた視聴したいと思うし、次は生でライブをみたいと願っている。